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#211 平成29年10月

『越後柏崎弘知法印御伝記』 原本
大英図書館蔵
このページは女将が毎月更新して
唐津のお土産話やとりとめもない
おしゃべりをさせていただくページです。
他の方の参加も歓迎です。
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東西トザ~イ! みなさん、こんにちは。
今月は、 前に何度か書いたことのある「唐津人形浄瑠璃保存会」の主宰・竹本鳴子太夫が6月にロンドンでの浄瑠璃公演のツアーに参加してこられましたので、おみやげ話しを書いていただきました。
私たちの日常からはうかがいしれないような世界ですが、これもまた”日本”です。どうぞお読みください。



 ロンドンでの浄瑠璃公演ツアーに参加して
                                    竹本 鳴子


公演のパンフレット
演じられたのは日本では失われた古浄瑠璃「越後国柏崎弘知法印御伝記」
自分のせいで妻を死なせたことを悔い高野山に入って数々の試練に耐え、
ついに妻の魂を成仏させ自らも即身成仏を遂げた弘知法印の物語です。



       
  私こと、竹本鳴子は、2017年5月31日~6月7日まで「ロンドン古浄瑠璃大英図書館公演」に早大演劇博物館ツアーの一員として、ロンドンとケンブリッジに行って参りました。公演の実行委員長はコロンビア大学名誉教授のドナルド・キーン先生。副委員長は早稲田大学名誉教授の鳥越文蔵先生です。
 私が参加できましたことは鳥越文蔵先生とのご縁を頂いてのことでした。7年前思いがけず早大演劇博物館の今は亡きある先生から、唐津には女義太夫さんがいるから応援してあげようと仰っていただき、鳥越先生に唐津にお越しいただけるようになりました。以来、鳥越先生には唐津のため、もったいないほどの有難いお心を寄せて頂いております。

 今回のロンドン公演は、鳥越先生が約300年前の古浄瑠璃を、ケンブリッジ大学教授でいらっしゃいました55年前に大英博物館で発見され、出版されたことに始まります。その台本を手にしたキーン先生が文楽の三味線弾きでその後キーン先生のご養子となる越後角太夫(本名キーン誠己)さんに復活上演をすすめました。そこで同じ文楽座出身の「越後猿八座」の西橋八郎兵衛さんに相談し、今回のロンドン公演になったのでした。満席の拍手がなりやまない大成功の公演で、英国でも高い評価を受けました。

 
佐渡 猿八座
佐渡の文弥人形は3人で一体を操る文楽とは違い一人遣いである 

 近松門左衛門とシェークスピア、お二人は謎の人とも言われ共通点が多く、洋の東西を越え、どんな時代にも人間の魂に訴えるものを書き遺しました。

 浄瑠璃は「情愛」を語る芸能です。鳥越先生は近松のことを、「あの時代、頭が良くて勉強好きだった」と仰っておられます。私は情の深い近松で、浄瑠璃を書き遺してくれたお陰で、はるかに昔であっても、また現代でも、人間の情愛は変わらないものと学ぶことが出来ます。

 私の浄瑠璃人生にとりましても節目と申しますか、学問的にも、芸の上でも、そして何より世界の人々に浄瑠璃は生きる力になると再認識いたしました。

 
 鳥越先生と鳴子太夫(左)
 ケンブリッジでは、鳥越先生の思い出に残るヒルトンホテルで皆様と公演成功の”第三回目”の祝賀食事会をいたしました。その折、鳥越先生が、55年前ケンブリッジ教授でいらした時、”ヒルトンホテルで食事をするのが夢だった”と仰り、ケンブリッジでの2年間の食事は、鍋でごはんを炊いて食べていたとお話され、ますます鳥越先生のお人柄に魅了されました。

 また、今回の早大演博ツアーの方々には本当に親切にして頂きました。「芸人」は私一人でもあり、「毎日三味線を弾く方だから荷物を持ってあげます!」 雨が降って傘を持たなかったら「着物が濡れます!」とご自分は傘をささずに貸して頂いたり、皆様の「芸」を大切にして頂くお心が有難く、心から嬉しい旅でした。

 
 大英図書館で古浄瑠璃の原本を見られるキーン先生と鳥越先生
 












そしてこのロンドン公演がなければお目にかかることが出来ないような、ドナルド・キーン先生のお優しいお顔も忘れられません。(鳥越先生が仰るにはキーン先生は勉学に非常に厳しいお方だそうです。) また息子様のキーン・上原誠己様の片時もドナルド・キーン先生から離れられることなく、「お父さん、お父さん」と仰るお姿も感動いたしました。

 人形の西橋様はじめ、逸見クロエ様、ロンドン大学のガースト教授、筑波大学名誉教授吉崎先生。東京国際文化交流協会代表理事の張志凡様、ニューヨーク国連事務局の五十嵐道子様ほか多くの素晴らしい方々に出会えましたことは、これから先の精進につながり、伝統芸能にたずさわれる幸福に感謝申し上げるばかりです。
 
 ツアーのみなさんと  ドナルド・キーン先生と鳴子太夫
                                   
                                               平成29年6月 記



  鳴子先生、ありがとうございました。お~、なんとうらやましい!
私は伝統芸能は、どこの国のものでも好きですが、日本のものがやはり少しはわかるので大好きです。昨年東京で文楽を見てきました。近松にゆかりの唐津では、「唐津人形浄瑠璃保存会」ががんばって、鳴子太夫の指導のもとに、毎年公演を行っています。最近では外国からのクルージングが入るたびにアトラクションとして招かれることも増えました。洋々閣女将は、毎回英語での字幕と解説の担当で老骨に鞭打っております。『巡礼おつる』を上演すると、外国の方でも涙を流されます。「情愛」は洋の東西を問わない、と、鳴子太夫が書かれた通りです。
それではこのあたりで今月は幕としましょう。

今月もこのページを訪れてくださってありがとうございました。またお会いしましょう。
                             
洋々閣 女将 大河内はるみ

 

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