#192
平成28年3月

2016年1月の雪の日のトラ
このページは女将が毎月更新して
唐津のお土産話やとりとめもない
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愛しき床置きたち


 唐津焼が今の姿になったのは、実は昭和初期からで、その前は、ずいぶん違うものだったようです。大きな水甕や、床置き、献上唐津の文具や器たち。昭和になって民芸運動などがあって、「桃山に還れ」という流れの中で12代中里太郎衛門氏(人間国宝、得度して無庵)の血のにじむような努力の末に絵唐津、斑唐津、朝鮮唐津、黄唐津などの抹茶茶碗や水指などが復活したものです。

ですから100年くらい前には、唐津焼の名人、中里天祐、中野霓林などは、たくさんの床置きを残しています。
今回は、洋々閣に残る床置きたちをご紹介しましょう。ずいぶん古めかしい話ですが、私がなんせ古いのですから、どうぞお許し下さい。



 
   ある夜、私の夢にトラが現れました。
「ガオーッ、こりゃ、おかん!」
「あれ~っ! トラが出た~。助けて~!」
「やかましわい、騒ぐな!食ったりしゃーせんぞ」
「あの~、おトラ様、この夜中に何の御用でしょうか」
「俺様はな、洋々閣に買われて100年近くもの間、広間の脇床に飾られて、ず~っと辛抱しとったが、もうつくずく嫌になった。なんで竹林の王者のこの俺様が人間どもの酔っ払いの騒がしい宴会をいつまでも我慢せにゃいかんのじゃ。昔から梅に鶯、竹に虎と決まっておるではないか。おかんは無知じゃのう。たいがい分で竹林に帰してくれ」
「はいはい、それは知らぬこととはいいながら、すみませんでした。早速明日お帰しいたしますデス」
・・・・・
というわけで、唐津焼のトラ様は竹林(とは名ばかりのひょろひょろ竹の足元)に出されたわけです。その翌日、なんと唐津にはめずらしい大雪が降って、トラ様は「雪の丞変化」となりました。うれしかったのか、寒くてつらかったのか、無知なおかんにはわからんこってござんした。
 石の上にも三年とはいいますが、洋々閣のこの愛嬌のある達磨さんは、何年座っておられるのか。途中で長いこと御留守でしたが、このたびめでたく石の上に復帰されました。寒くてかなわん、というお顔ですね。  
   達磨さんといえば、この立像は足がおありになるめずらしい達磨さんです。大きいもので私一人ではよう抱えません。庭に出さずに大広間に立っておいでです。特に大事だとは思ってなかったのですが、ある時「買いたい」というお客様がおられて、とたんに大事なものだな、と認識して、「とんでもございません、家宝でございます」と断りました。以後、時々頭をなぜたりしています。
 ここにももうひとつ、達磨さんが。うちの先祖はよっぽど達磨好きだったのでしょうか、それとも、それだけ当時は達磨が床置きの代表選手だったのでしょうか。  
   こちらは、達磨さんでなく、布袋様です。この布袋様の前に立って一緒に笑うと、幸せになります。悲しいことがおありになるかたは、どうぞ布袋さんに会いに来て、一緒に大笑いしてください。お賽銭はいりませんから。
 中里家の11代太郎衛門・天祐というかたは名人だったようです。この唐獅子は、風雪に耐えて枯れ山水を守ってきましたが、だいぶ傷みがでています。一度、故・13代太郎衛門先生がこれを見に来られて、「間違いない、11代の作品だ、家の中にいれて大事にしなさい」とおっしゃいましたが、動かすと崩れそうで、そのままになっています。  
   獅子なら、ここにもいますよ。「石橋」にでてきそうな姿の獅子です。牡丹の時期に華やかに活けて脇にこの獅子を配します。どなたも褒めてはくださらないけど、自分では毎年喜んでいます。
 このちょこっとした獅子は珠取り獅子で、まだ子供でしょうかね。たよりない姿してますね。しっぽは結構立派ですが、胴体がちょっと貧弱かなあ。
あれ、「誰、ボクの悪口いうのは?」って、にらんでますね。
 
   これは私の大好きな置物で、なんでしょうか。よそではみたことないものです。広間に置いておくと、お客様が頭をなぜたりして、かわいいねえ、とおっしゃいます。牙がりっぱなんだけど、アシカ?アザラシ?オットセイ?セイウチ?謎の生物です。足指があるのが、不思議なんですよねえ。ふつう、あのヒトたちは、ヒレみたいな幅の広いものがついていると思っていたのですが。どなたか教えてください。
 「寒山さんと拾得さん」は、仲良く松の木の間で語らっています。手の先が割れていますが、私が絆創膏をはってあげました。雨ですぐとれちゃったけど。今度は手袋なぞ、編んであげなくちゃ。  
   この立派なお姿は「孟子像」ではなかろうかと勝手に決めています。土蔵の片隅に何十年も埃を被ってころがっていたものです。孔子様だったら、両手を合わせた姿が多いようなので、巻物をもっているところから孟子様かな、と思うのです。うちの孫がお勉強が好きになるように、孟子様にあやかりたいので蔵から出して洗いました。
 お勉強といえば、天神様ですね。これは天神様だと思うのですが、人麻呂だとおっしゃる方もいて。天神様だと筆をもってなきゃいけない、とおっしゃって。そんなこと言ったって、お習字したくない日もあるでしょうに。
あなたはどなた?と訊ねても寡黙なおかたです。
 
   こちらは西行法師だと亡き父が言っていました。芭蕉じゃないの?という方もあって。どなたか教えて。
 これはおめでたい大黒さまと俵のネズミです。蔵の棚の隅にほったらかしていたのを今日思い出して探してきました。ずいずいずっころばしごまみそずい!  
   これは、焼き物ではあるけど質感が唐津焼のほかの床置きとはちょっとちがうなあ。狛犬でしょうが、対の相方が見つかりません。お稲荷様に置くとキツネと喧嘩するかも知れないので、ちょっと離れた植込みの陰に置きました。いつか相方に巡り合いますように。
   
おうちに唐津焼の床置きがあるかたで、いまどきこんなもの飾れないよなあ、なんて思っていらっしゃる方、捨てるのもかわいそうでしょう?生き物の姿をしていますもの。魂もあるかも知れませんもの。御先祖がかわいがっておられたかも知れませんもの。どうぞ大事にして下さい。それでもおじゃまなら、私にお下げ渡しくださってもよろしいのですよ。
今月のお話は、これでおしまい。


 


    今月もこのページを訪れてくださってありがとうございました。またお会いしましょう。

                             洋々閣 女将    大河内はるみ
                               mail to: info@yoyokaku.com