Benjo-man人形が転がり落ちた。
ちょっとしたはなし
トム・サグ
マザーグースなどのわらべ歌に出てくる’ハンプティ・ダンプティ’のように、私の博多人形の「Benjo-man」が、大墜落をして割れてしまいました。膝から下は粉々です。 妻のダイアンと私はハートが破れました。なぜなら、1960年代に私が米海軍佐世保基地に勤務していた時に買って、長い間この博多人形を愛していたからです。
この人形は、私達の家の入り口の部屋においた三段の日本のたんすの上に、小さなタタミの敷きものを敷いて、その上に大事に飾っていたものです。書斎で仕事をしていた時、玄関の方で物がわれるすごい音がしました。駆けつけてみると、私の大事なBenjo-manが割れて床に横たわっていました。残念なことに、ダイアンがよろけてタンスにぶつかって人形をおとしたようなのです。私の頭に最初に浮かんだことは、「おうさまのおうまをみんな あつめても、おうさまのけらいをみんな あつめても、ハンプティをもとにはもどせない」としたら、どうすればBenjo-manをもとに戻す事ができるのだろうか?ということでした。
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タンスの上に飾っていた元のBenjo-man |
割れたBenjo-man |
私はかけらを拾い集めて、靴箱に納めました。数週間嘆いたあとで、行動に出ることにしました。私は人形修復を出来る人を探し始めました。まずインターネットで数日間探しましたが、同じ人形を売っている人も、修復サービスを宣伝しているところも見つけられませんでした。希望がだんだんしぼみかけたころ、私は奇跡を起こせるひとりの人を思い出しました。長い間の友人の、日本のカラツの洋々閣のハルミ・オーコウチです。
私はハルミに窮状を訴えるEメールを送りました。ハルミは「Benjo-man」などという博多人形は聞いたことも見た事もない、もしかして「潮汲み」人形のまちがいではないか、と言いました。潮汲みとは、柄杓で海水を桶に汲む人の事で、女性の潮汲み人形ならいくらでもあるが、下肥えを汲む博多人形は、まさか・・・・ 日本人は肥え汲み人形を座敷には飾らないと思うけど・・・とのこと。
ところがその後、ハルミは、博多人形の組合に問い合わせて、なんと、本当に肥え汲みのおじいさんの人形であって、故・中村ヒロキと言う人の作品であったことが判りました。
私がハルミに送った割れた人形を、ハルミは博多人形商工業協同組合の理事長である武吉國明さんの福岡の工房まで持って行きました。伝統工芸士である武吉さんは、おだやかな、親切な人だと、ハルミは言いました。武吉さんは、修復を引きうけてくれました。
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武吉國明さん 福岡のショールームで |
数週間あとで、ハルミはふたたび福岡へ行って、修復された人形を引き取って来ました。送り返されてきた修理後のBenjo-manを見て、私と妻は興奮を抑えられませんでした。Benjo-manは、以前より良くなっているように見えました。私達はこの人形が元通りにつながって家に帰ってきた事で、とても幸せです。今度はもっと安全な場所に置いています。
私達は、修復してくれる人を見つけ出してくれたハルミと、修理してくれた武吉さんがすばらしい技術者であることに深く感謝しています。ハルミと武吉さんの二人で、「おうさまの おうまと、おうさまの けらいをみんなあつめても出来なかった事」をやってくれたのです。
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修復されたBenjo-man
武吉さんは、ずいぶん前からなくなっていた
天秤棒まで作って下さった |
トムとダイアン 戻って来たBenjo-manと一緒に
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おしまい