オックスフォード
10月、勉強の秋です。9月号のストラトフォード・アポン・エイボンに続いて、6月のイギリス旅行の続編ですが、今回はオックスフォードを主人が書いてくれました。
私は、オックスフォードでカレッジを10以上見たので、何処がどこだったかこんぐらがってしまいましたが、主人はちゃんと覚えているようで、凄いでしょう。もしかして、若いころ、ここに留学したい夢があったのではないかと、私はチラッと思ったりしました。老人夫婦の観光客を何組もみましたが、ある老人が、奥様を自分の卒業したカレッジに案内して、「60年前とちっとも変わっていない」と涙ぐんでおられたのを見たからです。歴史の長い大学には、脈々とこのような愛校心が続いていくのですね。
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試験期間の学生たち |
オックスフォードの町には、当然の事ながら学生がたくさんいて、自転車で走り回っていました。ちょうど試験期間で、ブラックガウンをきちんと着て、胸にカーネーションを一輪さして。白い花は、これから試験です、ピンクは、試験中です、真っ赤のカーネーションは、やったー!試験済んだぞ!という意味だとか。
試験が済んで出てくる学生を、校門でガールフレンドや後輩が待っていて、クラッカーを鳴らしたり、紙吹雪を浴びせたりして祝っていました。町には紙吹雪が散乱していましたが、学生の町の人々は寛容でした。
私たちも、青春に戻った気分で、学生でいっぱいのカフェやパブをのぞいたり、露地をまがってどこに通じるかわからない道を歩いてみたりしました。どこから曲がっても、また別のカレッジがありました。13世紀の古いシティーウォールに沿って、いくつものカレッジがそれぞれのチャーチを抱えて誇り高くそびえていました。ここで学んだ学生が誇りを持つはずだと思えます。
では、皆様をオックスフォードにご案内しましょう。
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6月9日 (日)
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コッツウォルズの草原は菜の花ざかり |
10時20分、シェイクスピアの町、ストラトフォードからステージコーチのバスで出発。コッツウォルズの草原を抜けて、バスは快適に走る。途中、チッピングノートンで乗り換え、チャーチル元英国首相の誕生の土地、ブレンハイムパレスを経由して、オックスフォード ジョージ ストリートに12時15分到着。ホリウエル ストリートにあるホリウエルB&Bは、簡単に探せた。イギリスに来て、一週間目、そろそろ家内が日本食を食べた
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日本料理屋「えだまめ」に並ぶ人々 |
いと言い出す可能性を考えて前もって調べていた日本食堂「えだまめ」は、なんとホテルの隣ではないか。「えだまめ」は大繁盛で、道端まで行列ができ、店内もギュウギュウ詰めで座らねばならなかった。味の方はノーコメントとしよう。
昼食後宿でしばらく休憩して、地図を片手に町の探索に出る。途中道端でゴスペルのコンサートの案内看板を発見し、ちょうど今夕なので、福音者聖ヨハネ教会を訪ねようと歩いた。かなりの距離だ
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ゴスペルのコンサート |
った。イギリス各地の聖ヨハネ教会から、選りすぐりのゴスペルの歌い手が集まったコンサートで、聴衆も一体となって盛りあがった。5時半から4時間のコンサートを堪能し、帰りは土地の人に訊いて、バスに乗って戻って来た。ロンドンの教会廻りでも何度もミサや聖歌隊のコーラス、また、パイプオルガンの演奏などに出くわしたが、偶然の出会いが旅の思い出をこの上ないものにしてくれる。イギリスの教会の歴史は、カトリックからイギリス国教に変わり、また、カトリックに戻ったりと、説明をよく読まなければ間違えそうだったが、どこも数百年の石の建物で高い尖塔がそびえ、内陣は目を見張るようなステンドグラス、キリストの像もそれぞれに趣が違い、また絵画も美術館のように見ごたえがある。何日廻っても時間が足りないくらいだ。家内は太り過ぎのせいで足が痛いので、泣きそうな顔で足を引きずって歩いていた。
6月10日(月)
宿の主人がウォーキング・ツアーを主催していると言うので、参加することにする。出発が12時なので、そ
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嘆きの橋 |
れまでは自分たちで観光する。まず、聖マリア教会を訪ねる。ここのタワーからの眺めはオックスフォード一だそうだが、124段の階段は私達夫婦には酷すぎる。あきらめて、12時ちょっと前、ツアーの集合場所、トリニティ チャーチの門前に着く。宿の主人は現れたが、参加者が4人と少ないので、声を大にして、客引きを始めた。やっと3人が加わって7人でツアーに出発。色んな建物を外から説明されるが、半
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セント・ヘレンズ・パサージュ |
分以上わからないままについて行く。ニューカレッジ通りの途中にあるハートフォード カレッジの「嘆きの橋」は、ヴェニスのリアルト橋にそっくりだということだ。
1379年設立のニューカレッジは、オクスフォード大学のカレッジの中でも大きなカレッジのようだ。
街歩きで印象的だ
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バースプレイス・ホテル入口 |
ったのはセントヘレンズ パサージュ。人一人が通れる幅の小路だ。ウイリアム モリスの妻の生家、バースプレイス・ホテルや、13世紀から続いているパブ、ターフタバンは、その入口にある。日が暮れて来て、と言っても、夜の10時まで明るかったが、クライストチャーチ メドウズを散策する。昼間は大勢の見物客でにぎわう大学の入り口も、人の気配がない。
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クライスト・チャーチ メドウズ |
6月11日(火)
午前中、ボドリーアン ライブラリーでは、私にとって初めての、世界の製本コンテストの入賞作品の展示を見た。世界中からの応募作品の中での優秀作品は、彫金や、染色、刺繍、漆塗り、革など、一点一点が素晴らしい芸術作品だ。さすがにイギリスでのコンテストのせいか、シェイクスピア物が多い。一番多かったのが「ハムレット」と「テンペスト」。次に「ソネット集」と「ロミオとジュリエット」。他に、チョーサー、ミルトンや「ドンキホーテ」などもあって、入賞者には日本女性の二人の作品もあった。再来年くらいに日本にもこの展示
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ブックバインダーコンテスト入賞作品 |
が廻ってくるそうだ。もう一度見たいものだ。
本と言えば、この建物の前にあるブラックウエル書店は、歴史も長く、ヨーロッパで最大規模の蔵書数を誇る本屋で、ボドリーアン ライブラリーにも多大な貢献がなされているそうだ。隣接地にボドリーアンの別館が建設中であった。
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食堂 |
昼近く、ユニバシティ オブ クライストチャーチを訪ねる。有名な食堂や聖堂は既に大ぜいの観光客が長蛇の列だ。どこのカレッジの食堂も似たような造りだが、上段に横に一列、教授陣の坐る低いテーブルがあり、下段には縦に何列か学生が座るハイテーブルがある。壁面は、何百年かの間のその大学への篤志寄付者や、学長の肖像画がかけてあり、一
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カバード・マーケット |
つ一つがまことに名作だ。貴族であったり、裕福な商人であったり、学者であったりする。
この大学前の「アリスの店」は、「アリスの不思議な国」をモチーフにしたアリスグッズの店だが、ここで偶然に取材中の松隈直樹カメラマン一行と出会う。一緒に食事をして、にぎやかだった。
オックスフォードは今試験期間中で、制服姿の学生たちが街角にたむろしている。絵になるガウン姿だ。
有名なカバードマーケットに寄って庶民の市場の雰囲気を楽しんだ。マーケットには、市民に訴えるポスターがたくさん貼ってあった。当局が地代を一挙に大幅値上げすると発表し、それでは商売が成り立たないので、撤収するほかはなく、歴史的なマーケットが消滅する、というものであった。同情して、パンなど買って帰ったが、日本のしっとりしたパンに慣れた口には、イギリスのパンはパサパサしている、と家内が文句ばかりいう。旅に来たら、旅先のものをたのしまなければいけないのだが。
6月12日(水)
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ボドリーアンライブラリーの入り口で |
ボドリーアンライブラリーの特別なツアーは、水曜日と土曜日のみに開催され、ラドクリフ カメラを含む90分のツアーだ。これを見るつもりで早く来たのだが、既に定員に達していて、あきらめるほかない。残念だ。ラドクリフカメラはこの方法以外には見られない。で、10時半からの40分ほどのスタンダードツアーに参加。隣接のシェルドリアンシアターは、コンサートや講演に使用されるとのこと。螺旋階段で天井裏まで行き、次に木製のハシゴで屋上に出る。家内は必死でよじ登っていた。
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シェルドリアン・シアターのゴシック天井 |
ジーザス、リンカーン、エグゼター、ウォドハム、トリニティ、バリオール、マンスフィールドなど、時間の許す限りそれぞれのカレッジキャンパスを見て回ったが、規模の大小はあるが、全て立派な食堂、教会、庭園に感心した。アシュモリオンミュージアムは大英博物館を思わせる。浮世絵のコレクションもある。大学の受付で日本人と判ると日本語で挨拶や説明をしてくれたり、枝豆が人気で、Edamameと英語になっていたり、日本文化に対する関心が深いことに驚かされた。あるカレッジの受付で入場料を払う時、こちらからシニアですと言わないうちに向こうから半額料金を言われたので、家内が「私達がシニアだって、どうしておわかりでしたか」と冗談をいうと、ウインクして、「いいえ、学生だと思ったのですよ」と。ウイットに富んだ国だ。
家内は、孫にどうしてもオックスフォードの校章のついたTシャツを買うのだと、痛い足を引きずって探し回った。’オックスフォード’とだけプリントしたのはあちこちにたくさんあって安かったが、それでは御利益がないといいはる。いったい何の御利益なのだ? 校章つきをやっと見つけて孫3人分を買った。やれやれだ。
今日で4日間のオックスフォード滞在を終えて、明日はナショナル エクスプレスバスで、温泉地のバースに向かうことにしている。それからロンドンに戻り、ユーロスターでパリへ行き、ストラスブールに遊んでドイツに入り、バーデンバーデン、フランクフルトから帰るという行程だが、私の担当はここまでなので筆を擱く。読了深謝。 2013.8月記 大河内明彦
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お付き合いありがとうございました。
また来月お越しください。
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MAIL to 大河内はるみ |
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