#143  2012年2月

このページは女将が毎月更新して唐津の土産話や折々の想いをお伝えします。
他のかたに書いていただくこともあります。
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女将ご挨拶#1



 みなさん、こんにちは。
 2月ともなりますと、冬だか春だかわからない微妙な季節ですが、風邪などは大丈夫ですか?
私は風邪をひくのが趣味じゃないかと言われるくらいよくひきます。すると食欲が落ち、「風邪引き膳の下」と祖母が言ってたのを思い出して、なんとかごはんを食べようとするのですが、なかなか食べる気がしません。そんな時にはお寿司でも買ってきてくれる人がいないかなと考えますが、結局だれも来てくれないので、自分でお味噌汁をつくります。お味噌を濃い目に溶いて、自然薯をたっぷりすりおろして入れますと、舌を焼きそうな味噌汁=とろろ汁が完成。ふ~ふ~言いながら食べると風邪も吹きとぶし、急に食欲もわいてきます。

 私が最近頂いてるのは、昨年秋に洋々閣で結婚披露宴をなさった佐々木励(つとむ)さん・美加さんちの「唐津自然薯」です。すてきな農業青年夫婦で、その時はうちの板長に言って自然薯料理を盛り込みました。私も試食して、ウン、これならいけると、女将の太鼓判。
 ついこないだも、お世話になってるかたが病気で食道の通りが悪いとおっしゃるので、佐々木さんの自然薯をお送りして喜んで頂きました。先生、早く元気になってください!

 今月号はその佐々木励さんにお願いして、夏目漱石の「猫」の先生も好んだ「唐津自然薯」を紹介して頂きます。
 

 では、ごゆっくり、とろとろと召し上がれ。



 
    


≪唐津自然薯の紹介≫

佐々木 励



◆唐津の自然薯は、昔藩主への年貢として納められるほど特別なものでした。

それは、唐津の山々が美味しい自然薯が採れる赤土の山でなおかつ綺麗な温泉が湧く山だったからです。※赤土で育った自然薯は、美白、美肌で粘り強いのが特徴です。

◆唐津くんちでは、自然薯のように粘り強く長生きできるように、願いを込めて食べる『三日とろろ』という風習もあり唐津の秋の味覚として古くから愛されてきました。自然薯は年を追うごとに大きく育ついもなので“出世イモ”とも呼ばれ、お正月の三ヶ日や節分に家長が家族の健康や出世を願いふるまうとても縁起の良いいもです。

唐津はもともと自生の自然薯が多い地域で、夏目漱石の「我輩は猫である」(明治38年作)にも唐津の自然薯が登場します。その頃から東京に持ち込まれていたことがうかがえます。

 少し紹介しますと......
 猫の主人宅に泥棒が入り、肥前の国は唐津の住人多々良三平君が帰省した時御土産に持ってきた山の芋を泥棒に盗まれてしまいます。

 主人は、「山の芋まで持って行ったのか。煮て食う積りか、とろろ汁にする積りか」と言い、盗難告訴状に書く山芋の値段を「1250銭位にして置こう。」としたところ、
 「いくら唐津から掘って来たって山の芋が1250銭もして堪まるもんですか」と細君の反撃にあい、夫婦口げんかの原因になってしまいます。(1250銭は現在のお金で約25万円相当です)
 また、お嬢さんたちの「山の芋ってなあに?」という問いかけに、三平は、
「まだ食いなさらんか、早く御母さんに煮て御貰い。唐津の山の芋は東京のとは違ってうまかあ」と国自慢をする場面があります。




 自然薯の主成分はデンプンですが、デンプン分解酵素のアミラーゼ等を含み、食べ過ぎても消化がよく、胃腸の負担を軽くして栄養効果を高めます。
 新陳代謝や細胞の増殖機能を促進する作用も強いため、常食することで元気な体づくりにも役立ちます。
 また、世界中の人々に愛され、様々に調理されているイモ類ですが、生で食べられるのは山芋だけです。すり下ろしても、千切りにしても、とろろ汁にしても大変美味しくいただけます。






≪ささき農園の自然薯≫



ささき農園の自然薯は、“化学農薬・化学肥料を一切使用せず”育てておりますので雑味がなく自然薯本来の味がします。

・ささき農園のこだわり・・・自然の循環を考える。

【水】ささき農園の自然薯畑には、農薬を使用しません。それは、畑の土が雨をろ過し温泉水を作るので、美しい水を守るためにも農薬は使えません。(この温泉の水はリューマチやアトピーによく効くと言われており、冷暗所で1か月保存しても腐らない綺麗な水です)

【土】この山の土は綺麗でフカフカした土なので根菜つくりには最適です。ここの自然を壊さないように、山の落ち葉や刈り草などから作った堆肥を入れることで、ミミズや虫たちが住みやすい土に近づけていきます。栄養豊富な大地からは、風味豊かな野菜たちが育ちます。 おいしかですよ!!

【願い】安心・安全な野菜作りを通して自然環境を守り、子供たちが安心して食べられる野菜を育て続けます。その野菜を食べたみんなの「美味しいの笑顔」が生まれることを願っています。

唐津の清涼な温泉が湧く、山の風味をどうぞご賞味ください。






≪有機JASマーク≫

有機JASマークは農林水産省の審査の上で登録認定されたマークです。
厳しい認定基準をクリアし無農薬・無化学肥料で生産された
有機(オーガニック)食品の証です。
20014月より、日本国内で流通する農産物で「無農薬」や「有機」を表示できるのは
有機JAS認定を受けたものだけです。


≪ささき農園プロフィール≫

平成18年 エコファーマー取得 佐賀県認定3113号
平成19年 佐賀県特別農産物認証
平成22年 有機JAS認定取得 食総研 登録番号10A028



■無農薬・無化学肥料への挑戦■

 私は、10年前に交通事故にあい1年間寝たきりなったことがあります。
1年のリハビリ生活を脱した時に職もなくなり、自分の人生において目標を失っておりましたので「自分には何ができるか」を探しに趣味であるサーフィンをしながら世界を旅することにしました。そこで数回訪れたことがあるインドネシアのある島で、数年前までみんなが楽しく集まっていた浜辺の大きな木が、地球温暖化の影響で倒れている風景を目の当たりにしました。この事実をきっかけに、私の中で自然環境を守りたいという気持ちが生まれました。

じいちゃんは86歳。パワーシャベルや大型トラックを乗り回す。
ばあちゃんは84歳。いつもニコニコ、穏やかで、愛情いっぱいに
野菜を育てている。


 私一人の力では地球全体を守ることはできないけれど、実家の畑や田んぼを守ることくらいはできるのではないかと思い、家業であった農家を継ごうと決心し帰ってきました。まずはじいちゃんに弟子入りし自然薯作りを始めました。
86歳になるじいちゃんは、私に「自然薯は、自然のイモと書くじゃろ。自然のまま育てて、なるべく農薬や肥料を使わんようにせんといかん。」と有機栽培への道を示してくれました。

ですが、これまで当たり前にかけてきた化学農薬や化学肥料を使わず野菜を育てるということは簡単なことではありませんでした。

 薬をかけるのをやめるとすぐに野菜に病気が出始めました。病気に牛乳をかけると良いとよいと聞き、早速試してみましたが、かけた日の天候が悪く牛乳にカビが生え病気を抑えるどころか悪化させたこともありました。

 また、虫に食べられるからと唐辛子を煮立たせ唐辛子エキスを作り、野菜にかけた時は涙と鼻水、咳が止まらず大変な思いをしました。

 このように苦労して育てた野菜も農協や市場に出すと、なんの差別化もされず安く買いたたかれることも多々あり悔しい思いを何度もしました。ですが現状に文句を言うだけでは何も始まりません、「ささき農園の野菜の良さを理解し、消費者に届けてくれるスーパーを探そう」と決心しました。

8月頃の山芋畑。一番ワイルドに葉が茂っている。
ここはもともと山芋が自生していた温泉が湧く山の頂上。


 その甲斐もあり、今では「ささき君の野菜ならうちの子どもも食べられるとよー」と嬉しい声も聞けるようになりました。野菜を育てるということは奥が深く、まだまだ失敗の連続で、ひたすら原因を探す日々が続いていますが、試行錯誤の末気付いたことは“自然のバランスを崩さない”ということです。一度化学農薬や化学肥料を使ってしまった畑は、土の微生物が死んでしまい、自然のバランスが崩れて回復するまでに3年以上の月日がかかります。人にも同じことが言えるのではないでしょうか?

 「医食同源」という言葉があるように、食は人にとって薬になりますが、農薬や化学肥料で育った野菜では意味がありません。現代病のアトピーやうつ病なども食生活が原因だとも言われています。

 私の彼女も、数年前まで病気がちで、少し無理をしたりストレスを溜めると、すぐに熱を出して寝込んでいました。彼女の仕事は食事の時間も不規則で、コンビニで簡単に済ませたり、食べられない日も多々あったようです。いよいよ体に無理が利かなくなり、仕事を退職せざるを得なくなりました。気晴らしにでもと農家の手伝いをするようになり、体を動かし三食きちんと食事を取ることができ、極力無農薬の野菜を食べることで、少しずつ体調もよくなりました。


彼女とは昨年10月、洋々閣にて無事結婚式を挙げることができ、今は幸せな日々をおくっています。これまで色んな壁にぶつかり、何度も「薬をかけようか、やめてしまおうか」とくじけそうになりましたが、ここで私がやめてしまったら妻や私の家族、これから生まれてくる子どもに安心安全な野菜が食べさせられなくなってしまうので、途中であきらめるわけにはいきません。現在、自然栽培に取り組む若者は少なく化学農薬や肥料に頼った農業が多いですが、私が自然栽培の道を示すことにより唐津の農業に携わる若者に自然栽培への興味を持ってもらえたらとがんばっております。妻も外で働きながら、農繁期や休みの日には手伝ってくれています。これからも美味しい野菜を育てるぞ!!


ささき農園 佐々木励
849-5104 佐賀県唐津市浜玉町渕上1247
電話 090-5293-2502 FAX 0955-56-6017












右の写真はヤマノイモの果実。大きな三つの陵があり、それぞれの陵の中に種子がはいっている。
「鼻たか面」といわれ、子供が鼻に乗せて遊んだもの。



山ノ芋ハ オイデオイデヲ スルゴトク 葉ヲフリテオリ 小サキ ソノ葉
一ノ関忠人



励さん、有難うございました。
昨年の秋に励さんが美加さんとお二人で披露宴の予約においでになって、お二人が希望をもって農業をなさっていることを知り、なんだかとてもうれしかったのです。私は二十年ほども前に、佐賀県の農村活性化のアドバイザーを引きうけて10年間ほどあちこちの農村部に行きましたが、どこへ行っても後継者不足、嫁の来てがない、などの悩みを聞いていたからです。このところ新しいタイプの農業青年が増えてきたような気がします。ありがたいことです。
どうぞ皆様も若い農業者を応援してください。

まだまだ寒いです。今晩あたり、芋粥もいいですねえ。芥川龍之介の『芋粥』を思い出しました。「某の五位」さんほどではないにしても、私も芋粥好きです。飽きるほど食べてみたい!
ではまた、来月お目にかかります。もしお風邪を召しましたら、早速とろろ汁をふ~ふ~してすぐによくなって下さいませね。


     
 
  今月もお越しくださってありがとうございました。
  また来月もお待ちしています。
                                                MAIL to 大河内はるみ