唐津市七ツ釜

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唐津のおみやげ話をお伝えするページです。
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    #1 御挨拶
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2010年8月





 また暑い日々がやってきました。例年8月には私はこのページで亡き人を偲んでおります。今回は友人の高島篤志さんに、共通の友人であった故・ジャック・マイヨールの思い出を語っていただきました。高島さんも私も、唐津市が東京大学の学生さんに依頼して作成したドキュメンタリー映画『ブルーシンフォニー』に出演しておりまして、この映画は東京でも小劇場で上映されました。県内市内でも何回か上映されたようですが、11月には唐津市北波多での、脚本家・井手俊郎生誕百年記念の映画祭で、『青い山脈』など井手作品の名画の間に上映されるそうです。この映画祭に関してはこのページの9月号で詳しく御紹介する予定ですので、お楽しみにお待ちください。
それでは、高島さんのエッセイをどうぞ。
写真も高島さんの作品です。






唐津とジャック・マイヨール
高島篤志




 唐津の海に欠かせない男がいる。
伝説のダイバー「ジャック・マイヨール」である。 マイヨール一家は、避暑を唐津で過ごすため、上海からはるばる来ていたのだ。
 ジャックは東唐津の漁師に素潜りを教わり、七ツ釜でイルカに会ったのだ。ジャック・マイヨールの伝説は唐津から始まったのである。ジャック少年は洋々閣のすぐそばの砂浜で、海で、遊んでいたのである。
 それから約五十年後洋々閣に逗留するようになるとは、縁というだけでは片付けられない。僕も二十四年ぶりに洋々閣でジャックと再会、長い付き合いが始まった。
 七ツ釜は、ジャックが初めてイルカに会った海である。伝説のダイバーの原点は、唐津の七ツ釜の海なのである。

 ジャックが唐津に帰ってくると、船を出して七ツ釜に潜りに行くのが決まりであった。仲間を呼んで、食糧を買い、飲み物、果物、もちろんワインも持って、のんびりとしたショート・トリップだ。波静かな入江に錨を打ち、ゆっくりと準備を始める。
七ツ釜で潜るジャック・マイヨール
 ジャックが海に入るにはいくつかの儀式があった。まず太陽に向かって独特の呼吸をする。ハシゴを降りて肩まで海につかると、ゆっくりとした呼吸をくり返す。そして船からはなれると、突然、静から動へ変化する。
 両腕で水面を何度も激しく叩くのだ。
 それからゆっくりスノーケリングで水面を泳ぐ。船から下げた潜降ロープにつかまり、水深3メートルぐらいで2,3分はじっとしたまま動かない。昔会ったイルカに語りかけているかのようでもある。この儀式が終わるとようやく潜りはじめるのだ。

 ランチはジャックが食べようと言うまでは僕たちは食べられない。彼が王様だから仕方のないことである。ジャックは他人が食べているものを欲しがる癖があった。僕が食べていると、「少しくれ」と言う。
 「嫌だ」
 「自分も食べたい」
 「ノー」
すると、もっともらしい理由を言いだす。
 「それは自分が初めて見る食べ物である。今まで見たことがないから、どんな味がするのか味見をしたい」
 こんな調子で僕が食べたいものは、ジャックの腹に納まってしまうのである。
 食事の時はワインを飲むので、昼食後、ジャックは海には入らずゴロゴロしている。
 海の上で潮風と太陽の光を全身に浴び、自然の中に溶け込むだけでよかったのだ。
 時だけがゆっくり動き、僕たちもジャックにならって横になり、自然の恵みに身を委ねていた。ジャックに教えてもらった自然との付き合い方である。人間は自然の一員なのである。自然の中で急ぐのは愚か者のすることだ。自然の中では、ゆっくり自然に溶け込み、自然の一員となる。まさにジャックのおっしゃるとうりである。ジャックが唐津に来るたびに七ツ釜の海でゆっくり自然と戯れた日々が今でも瞼に浮かんでくる。
 ジャックが逝ってまもなく9年になる。エルバ島の海に散骨されたが、イルカに初めて出会った唐津の海には、長男のジャーン・ジャック・マイヨールが訪れて、父とイルカに祈りを捧げた。




 高島さん、有難うございました。子供のように無邪気にわがままを通すジャックさんは、私にもたくさん思い出があります。洋々閣のユカタや、丹前、箸置き、硯や筆など、お部屋に置いておいたものは何でも欲しがりました。黙っては持ってゆかないのは、さすが、エチケットの国、フランスの人でしたけど。

  ジャック・マイヨールがお好きな方は前に書いたものもお読みください。
                追悼ジャック・マイヨール

 高島さんは海洋写真家でもあります。特別に七ツ釜近辺の海の写真をいただきました。お楽しみください。

体長80cmくらいのアラに出会った。
オヤビッチャという熱帯魚。
ヤリイカの卵が岩に産み付けられてぶら下がっている。小指ほどの太さで長さが30cmくらいある。よく見ると、子イカの眼が黒い粒となって見えている。(写真の原本にははっきりと見えている。)


 高島篤志さんは唐津アクアラングサービスというお店を経営しておられます。ダイビングも教えておられますし、海中の調査で潜水されることもたくさんおありです。ご用の方は御取次しますので、女将宛てにメールをどうぞ。私も高島さんに教えてもらって海底の金塊などを探そうかと思案中です。
では皆さま、ごきげんよう。来月お目にかかりりましょう。




今月もこのページにお越しくださって
ありがとうございました。
また来月もお待ちしています。


洋々閣 女将
   大河内はるみ


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