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唐津のおみやげ話をお伝えするページです。
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#1 御挨拶




#42
 平成15年9




風を追って
―重 由美子







 みなさま、無事に暑い夏を乗り切られましたか。
 私はことのほか夏バテがひどく、ますます太って?しまいました。
重 由美子

 スポーツでもやって、すっきりしなくちゃ。

 良い風の吹く海に囲まれた唐津は、日本でも最高の水準を保つヨット王国です。
 この王国を築き上げてきた先人たちもたくさん知っていますが、今回は玄海セリングクラブ重 由美子(しげゆみこ)さんをご紹介します。 由美子さんはアトランタオリンピックの銀メダリストです。

 重由美子さんは昭和40年に唐津市西唐津に生まれ、西唐津小学校、西唐津中学校から唐津東高校に進みます。ヨットとの出合いは小学校5年生のとき。ボランティアのおじさんたちから手ほどきを受け、同時にヨットの手入れ、修理やペンキ塗りなど、なんでも自分でできるように育てられます。すてきなすてきなおじさんたちだった、と由美子さんは言います。
松山和興コーチ

 松山コーチに指導を受けるようになってからはメキメキと頭角をあらわしていきました。国内の試合のときに知り合った木下アリーシアさんを誘ってコンビを組み、国際的な大会に次々に出場、3度のオリンピックにも代表選手に選ばれました。バルセロナで5位、アトランタで銀メダル、シドニーでは8位。二人は日本のセイリングの歴史に燦然と輝く星です。

 由美子さんは現在唐津のヨットハーバーに勤務して毎日毎日たくさんの体験学習を指導しています。夏場の3ヶ月で100回ほども子供たちを相手に奮闘します。そんなとき小柄な由美子さんが大きく見えるのです。日に焼けた素肌に大きな目が輝いて、寡黙なのに雄弁な由美子さんは、唐津の誇りであり、子供たちのあこがれです。


 「由美子さんには風が見えると評されてるのね」と私が言うと、由美子さんは「いいえ、見たいと思って追っかけているだけです」と答えました。「こんなに可愛いひとにプロポーズする青年はいないのかしら」と突っ込むと、「毎日すてきなおじさんたちに創意工夫や勤勉努力を教わっていますから十分幸せです」と、かわされました。先月150人もの視覚障害の方々の試乗体験があったときは、おじさんたちの創意工夫で足りない設備を自作して、すばらしい経験をした、とやわらかな口調で語ってくれました。

 今月は、由美子さんの既発表の文章を3編いただきましたので、お楽しみください。







海外の海を渡って感じること


                             重 由美子
 
オリンピックキャンペーンを開始して、武者修行のため海外を転戦してきたが、海洋文化の違いを見せ付けられることが、多々ある。
 初めて、海外遠征をしたオランダで、高速道路がえらく渋滞するなあ、事故でもあったのかなあと2時間近くも止まって渋滞待ちをしていたら、その先には、跳ね橋があり、ヨットが1隻、1隻悠々と通っているではないか!陸の交通よりも、海の交通が優先する、それが当たり前と受け止められている
オランダがとてもうらやましく思えた。
 ハーバーでは、小型船舶免許のいらないオランダでは、4歳くらいの子供が5馬力くらいのゴムボートを運転して遊んでいる。生まれたころから、家族とともに海に親しんでいるので、小さくてもきちんと運転できるし、怖がらない。何よりも、ライフジャケットを正しく装着しているので、安心なのである。ハーバーや水際で遊ぶ子供たちは、必ずといっていいほど、陸上でもライフジャケットを着用している。そうすれば、不意に海に落ちても安全だし、のびのびと遊ばせてやることができる。犬ですら、ライフジャケットを着用している。水に親しむことが、大好きな人たちは、誰よりも、海の怖さを知っているがゆえに、港の散歩道、島のいたるところ、人が集まる水際には、必ず救命浮輪が、装備されている。そういう、いろんな工夫をして、海と楽しくつきあっている。
 町のお祭りレースに参加させてもらったスエーデンでは、巨大なフェリーが出入りする川の中で、川岸にたくさんの観客を従えてのレースだった。大きな船の航路があるところでは、日本では絶対に許可してもらえないが、ここでは、国際ルールをお互いがしっかり守って、お互いが、安全を意識して互いのルールを守るという意識が高いからこそできる、共存共栄のとってもしいレースを味あわせてもらった。
 昨年まで、よく通ったシドニー湾でも同じ光景が見られた。シドニーの休日は、さながら海のラッシュアワーである。多種多様のヨット、ボート、フェリー、コンテナ船、ひいてはいかだまで、ありとあらゆる船が狭いシドニー湾を行き来し、その中でヨットレースも平然と行われている。強く感じたのは、シドニーの人たちは、日本人のわたしたちが、避けようと思うワンテンポ前にすでに相手を避け始めていることだ。自分が安全と感じる1歩前の安全。これが、これだけヨットが入り乱れていても事故が起きず、みんなが海を楽しめる秘訣なのだと感じた。相手を不安に思わせない早目の迂回と、交差するときに必ず手をあげて気のいいあいさつをかわしてくれるオージーの海を愛するがこそできる相手への配慮とグットマナーにとっても心地よくトレーニングをすることができた。
心底、海を愛すればこそ、守れるルールとマナー。心底、海を知っていればこそ、できる、安全対策。
海洋国日本も、海外の海洋国のように海洋文化が浸透して、自然の偉大さに敬意を払いつつそこで、人が、あらゆるものと共存してあらゆる面で豊かになっていけるよう、海を愛する1セーラーとして尽力していきたい。






アトランタオリンピックに出場して
バルセロナ 左:重  右:木下


                                
 あの時と同じ思いだけはしたくなかった。あのとき、そうバルセロナオリンピック。
初日、思いがけずトップをとり一躍メダル圏に入る。オリンピックを目指す人なら、いやスポーツをする人なら誰もが夢見るオリンピックでの金メダル。その夢が目の前に見え隠れしてくる。この私が本当にメダルが取れるんだろうか。そんな不安をよそにレースは刻々と進んでいく。風ではなくメダル圏にいる相手を意識したコースをとっていく。風がだんだん見えなくなってくる。ついに、メダルという化物を追うがゆえに深い森の中へ入っていき出口を見失ってしまった。もう追えない。メダルの夢をあきらめた最終レースだけが自分に対して納得のいくレースだった。悔しいというより、目先の欲得に縛られ、自分を見失い、大好きなヨットレース
アトランタで銀メダル
の神髄が味わえるオリンピックをこんな形で終わらせてしまった自分が情けなかった。
 自然を読み、波と同化し、見るものを圧倒させる。その先には必ずメダルが見えてくる。メダルはただの御褒美だ。メダルを追ってはならない。風を追わなくてはならない。
自然に素直でなければならない。周囲の期待が高まり、取材が加熱し、オリンピックの独特の雰囲気に自分を見失いかけたとき、私を基本の気持に戻してくれたのは、ヨットを無心でやった中で出会った人たちのやはり、無心の思いやりと支えだった。
欲得のからんだ人達の言葉は時として選手を窮地に追い遣るが、私達の仲間は、どこまでも無欲に接し、私の我が侭をぐっとこらえひとつの統一した大きな目標に向かって支えてくれた。会社組織ではない、人と人の繋がりの中でとったメダルだった。
支えてくださったたくさんの皆さん、ありがとうございました。



「熱きハート」に支えられて〜シドニーオリンピック
                        
 このシドニー湾から全ての船がいなくなるまで走り続ける・・・。
そんな思いで練習し続けた。
 ハーバーブリッジに沈むきれいな夕日、のちにオペラハウスが鮮やかにライトアップされ始めるシドニー湾が織り成す色の変化をつぶさに見ながらチューニングパートナー、潮流調査班、そして松山先生と共にみんな同じ思いで帰港の毎日が続いた。
木下百合江アリーシア

 どんなに遅くなってもライトをつけて待っていてくれるハーバーのおじさん。
帰ると食当さんが待ってましたとばかりに美味しい料理を出してくれる。
みんなの願いは1つだった。
その願いが叶わなくなって迎えた最終レース。それでも我がチームサポーターメンバーは、全員で、シドニーの道端で恥ずかしげもなく大きな円陣を組んで送り出してくれた。
「重、木下組ファイト!!」
この大きなスクラムこそが自分たちがどんな結果になろうとも最後まであきらめずに戦える遠因なのだ。
 私は、オリンピックのトップアスリートからよりもさらに多くの事を、地道に自分ができる限りのことを考え抜いてアイデアを振り絞ってサポートしてくださった人たちから学んだ。
「熱きハート」   最大の武器である。
「熱きハート」で至らない主役を支えてくださった多くの皆さんに心から感謝致します。




 由美子さんは県のヨットハーバーの職員としての仕事をこなしながら自分の練習をしますが、企業に属していて練習や試合に専念できる選手と比べると随分ハンディが多いのです。時間の制約もあるし、帆ひとつ買うにもスポンサーなしですから苦労します。日本の雇用制度や寄付のやりにくい税制なども問題です。ライフスタイルとして楽しんでやっておられる外国のヨットクラブと比べて日本は100年遅れている、と由美子さんは感じています。
 
高校生を指導する重(右端)
唐津の海からヨットをもっとひろげて、海洋王国日本の不動の地位を確立できるのはいつでしょうか。
その日まで、重由美子の挑戦は続きます。風を追い、夢を追い、今日も海に出ます。

 みなさまも、ヨットに乗りにいらっしゃいませんか。試乗体験をなさりたいかたは、ハーバーのほうへお問い合わせください。幼児から高齢者、障害者まで、「創意工夫」で対応してくれる素晴らしいスタッフがそろっていますよ。寄付のお申し出もどうぞ!
佐賀県ヨットハーバー
電話:0955−73−7041
所在地:唐津市ニタ子(ふたご)3−1−8

では、また来月。お元気で。




このページの写真の5枚目までは、1997年KAZI2月別冊より、アニメのヨット二つはGIF Animation Galleryからお借りしました。
今月もこのページにお越しくださって
ありがとうございました。
また来月もお待ちしています。


洋々閣 女将
   大河内はるみ


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