#16    平成13年7月  

鎮魂の賦
―リキさん、そして、澄子さん―





 私の夫は大河内明彦。その父、大河内等(故人)は、呼子出身で旧姓永井。父の弟に永井為男という人がいて(故人)、その妻はみゆきという人(故人)でした。その夫婦の4女が、今日書きます澄子さんです(後に佐藤姓)。みゆきさんは西唐津の一力家の出で、一力家の、みゆきさんの長兄(故人)の息子が「リキさん」なのです( 一力干城=いちりきたてき氏)。だから、澄子さんとリキさんは、いとこ同志です。二人とも、残念ながら故人です。

 澄子さんは、私と同級生であり、父方のほうでふた従妹でしたから、おまけに家も隣同志だったので、保育園の時からいつもいっしょでした。私がメソメソ、澄子さんが負けん気でした。
sumiko & harumi (age 5)


 永井家にリキさんが遊びに来ることがあって、私も小さいときから一つ上のリキさんを知っていました。その頃はリキさんはまだリキさんと呼ばれていずに、私たちは「たてきちゃん」とか、不思議なことに、「ぼうや}とか呼んでいました。多分、娘しかいないみゆきおば様が、甥をそう呼んでかわいがっておられたからでしょう。
 どんな少年だったかは、よく覚えていません。ただ、やたら度胸のある子供だったように記憶しています。澄子さんも、今思えば早死にの運命だったのか、太く短く生きるような言動の多いひとでした。リキさんといい、澄子さんといい、その思いきりのよさ、行動力などは、明治、大正、昭和初期と、石炭積み出しの華やかなりし頃の唐津港の荷役をいってに仕切っていた一力家のDNAではなかったのでしょうか。

 高校くらいになると、リキさんは遠くで見ていてもハラハラドキドキするような人になりました。
当時はまだマイナーで、クラブもなかったサッカーをやっていて、野球部の人たちとはまた違った雰囲気をもっていました。肩を少し斜めにして、学生服の一番上のボタンをはずして、ちょっとこわい感じで、でも整ったマスクがなにか悲しげな人でした。

 高校をリキさんが先に卒業していかれてからは、澄子さんからもリキさんの消息を聞くことがなく長い時間が経過しました。

 次にリキさんと接したのは、リキさんが有名な「新宿時代」を終えて故郷唐津に帰り、南城内に「リキハウス」というピザのお店をなさりながら、色々な音楽活動をなさっているころでした。
 私の弟、山口真文はジャズマンで(サキソフォン)、里帰りコンサートが唐津であった時に、久しぶりに私もリキさんにお会いすることになったのです。
 30代になったリキさんは、大柄な人ではないのに、なにか尋常でないカリスマ的な感じで、けれどもやっぱりどこか悲しげな人に見えました。

 数年たって、リキさんの病気からの失明を聞き、それからほどなく、早過ぎる死を知りました。

 リキハウスが閉まるのかと心配していたら、そんな様子もなく、奥さんの千恵さんが立派にやっていかれているようでした。
 そのうち、「リキさんに捧ぐ」というコンサートが始まったことを知り、ロックらしいので、もうオバサン年齢になっていた私は行く勇気はなかったものの、気になる存在でした。
 何度かピザを食べに行き、そっと千恵さんらしい人の様子をうかがったりしました。
その後、千恵さんとも話をするようになりました。とても賢い人です。

 「リキさんに捧ぐ」は、年々盛大になり、今やリキさんは「伝説の人」になりました。リキハウスも場所を移転しましたが、西唐津の駅のそばで、ちゃんと頑張ってやっておられます。「彼は西唐津に帰って来たかったのよ」と千恵さんがつぶやいたことがありました。西唐津こそ一力家の本拠地ですもの。


 リキさんの死の数年後に、澄子さんも癌でなくなりました。
彼女は病院に入ることをギリギリまで拒否して、自分の癌をわらいとばして逝きました。ハンサムな息子を二人残して。

 澄子さんを思うときいつもリキさんを思い出し、リキさんの奥さんとあってリキさんの話をするといつも澄子さんを想います。
sumiko 1988

なぜ気になるのかわからないのに、リキさんはいつまでも心にかかります。
そういう人だったのでしょう。オーラがある人だった、と、千恵さんが言っていました。

 今回のこのページには、リキさんの奥さん、一力千恵さんに、リキハウスの紹介を書いていただきました。
 リキさんを知っているかたも知らないかたも、私と一緒に、倒れた巨木を惜しんでいただけたならば幸いです。
 そして、澄子さんを知っているかたも知らないかたも、盛りに散った大輪のバラの花を偲んでいただけたらうれしいです。

 下から、千恵さんのページへ、そしてそこから、中上健次の詩「リキに捧ぐ」をご覧下さい。

 
 

   RIKI HOUSE のページへ


洋々閣 女将
  大河内はるみ


      メール