#7 平成12年10月  
青木繁と河村龍夫氏
 ようやくに美しい秋の空となりました。皆様いかがお過しでしょうか。つたない私の文章にたくさんのお励ましの言葉をいただいて、ありがとうございます。今回は、芸術の秋でございます。どうぞしばらくお付き合い下さいますようお願い申し上げます。

 唐津市役所の前に、「唐津小学校跡」という碑があるのをご存じでしょうか。その文字を書かれたのは、河村龍夫というかたです。そのかたのことを古い方はご存じでしょうが、恐らくインターネット世代のかたにはなじみがうすいのではないでしょうか。

 河村龍夫氏の経歴は、こちらからごらんいただくとして、私が皆様にお話ししたいのは、「河村美術館」のことです。
唐津市北城内、高取邸のすぐ近くに、河村美術館はあります。この美術館は、河村龍夫氏のご子息、河村晴生氏が1990年10月に建てられたものです。1991年の『ポート唐津』に河村美術館特集が組まれ、そこに晴生氏の言葉があります。どうしてこの地に美術館を建てられたかを語っておられますので、ここに引用させていただきました。

 ご挨拶
              (財)河村美術館理事長 河村晴生
 この度『ポート唐津』誌が(財)河村美術館の特集をされるにあたり感謝をこめて一言ご挨拶申し上げます。
 関西生れ、関西育ちの私が唐津に美術館をつくりました経緯は、唐津は私の祖先の地であり、父河村龍夫は故郷唐津をこよなく愛し老人福祉センターの寄付をはじめ、唐津の為に何かと世話をやくのをみて私は育ちました。私の今日あるのも亡父はじめ祖先から受けた恩恵の賜物と感謝しています。又父は実業人として一生を終えましたが、反面文学芸術への資質と薀蓄は優れたものがあり、その父への鎮魂と祖先への報恩のしるしとして美術館の建設をおもいついた次第です。
 従って展示美術品は大半は父が蒐集したものであります。特に父が興味と関心をもった、九州が生んだ洋画壇の鬼才青木繁の遺作を中心に西洋、東洋の工芸品等多岐に亘っているのが弊館の特徴であります。
 二十世紀もあと十年を残すのみとなりました。我が国も物質的には豊かな経済大国となりましたが精神面その他、たち遅れは認めざるを得ません。
 先人の言葉に、「芸術は万人に愛されることを自ら望む」という古語を思い出しました。芸術は皆様に親しまれることを待望しています。
 いたってささやかな美術館ではありますが市民の皆様に充分ご活用いただき、国際的に通用する教養の体得に役立てていただければ望外の喜びと思います。
 私も現状に満足することなく内容の充実と企画面に気を配り、一層の向上を心がける所存です。市民の皆様のあたたかいご支援とご愛顧をお願いいたします。

 ここでお分かりのように、河村晴生氏は、お父様への思いを込めてこの美術館を作られました。かなりの年間の経費を負担し続けられていることを思うと、大変なご苦労ですが、唐津のために、と大きな犠牲を払って下さっています。どうぞ皆さん、唐津市民の感謝の気持ちを表すために一年に一度くらいは、見に行ってください。

 この美術館には色々素晴らしいものがありますが、やはり青木繁の作品には、いつ見ても心臓をわし掴みにされるような気がします。

 ずっと前の佐賀県の文化雑誌『新郷土』(残念ながら廃刊になりました)に掲載された、河村龍夫氏の「青木繁と佐賀」という文章を別ページに転載しております。長いものですが、青木繁の佐賀県における足跡をていねいに河村龍夫氏が辿って調べておられますので、秋の夜長にお読みいただけるならばこんなにうれしいことはありません。まるで、早死にした放蕩息子の放浪の跡を父親が痛恨の思いで辿っているように思える文章です。文面にひたひたと満ちる哀惜の情に、ワープロに入力しながら何度か涙しました。

 ここ十年くらいでしょうか、画壇に青木繁記念大賞などもでき、青木繁の再評価が進んでいるような気がしますが、早くから青木繁を高く評価され、これだけの熱情をそそがれた河村氏の慧眼に、同郷の者として誇りをも感じます。転載した文章はだいぶ前のものであり、近年になって青木繁関係の研究書は次々に出版され、河村氏の研究に訂正や追補も多々ありましょうが、だからといってこの論文の価値が下がるものでもなく、その時代に一人の多忙を極める財界人が、これだけの労作をものされたということに、心からの敬意を表したいと思います。

 青木繁の絵を見るたびに、私はいつも不思議な妄想にとらわれます。肺を病んでやせ細り、異臭のする服装の、目つきのするどい青年画家が、今、フラフラと洋々閣の玄関に現れて、宿を乞うたら、私、招き入れて、お風呂に入れて、滋養のあるものを食べさせます。そして、死なせやしません!ああ、なんともったいない才能を早世させたことでしょう。私の生まれるずっと前の明治44年に29才で死んだこの天才画家に、まるで恋患いのように心をかき乱されるわたくしです。

 今回快く貴重な資料をお貸し下さいました(財)河村美術館様に御礼を申し上げます。
 なお、私の幼稚な技術で青木繁の絵の色合いなどを損ねてはいけませんので、一切絵の写真はつけませんでした。ぜひ、河村美術館にてじかにご鑑賞ください。(場所は、こちらの地図のbの4の左下の隅あたりです。TEL0955-73-2868 唐津市北城内6-5)
 寒さにむかう風の中に、唐津くんちの稽古の笛の音が流れてきます。忙しくなりますね。また、来月。
  故 河村龍夫氏の論文 青木繁と佐賀
   
    LINK 河村美術館 ホームページへ
洋々閣 女将
   大河内はるみ

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