初秋の候ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。 中里隆さんが古稀を迎えられる事になり、何が私に出来るかを考えた時、ろくろの名手である隆さんに古唐津に匹敵するような唐津ものを作って貰うことはできないかと思いました。隆さんは一旦承知したように見えましたが、なかなか腰が上がらない様子でした。そこで、出光美術館の荒川正明氏に相談しました。 中里隆さんは現代日本を代表する作陶家であるので、その独自の世界を少しでも多くお見せすべきではないかという言葉に、なるほど隆さんの価値は唐津という狭い地域を越えたもっとスケールの大きい国際的陶芸家なんだと改めて認識しました。陶芸に関心のある外国の方には隆さんの評価が極めて高いのですが、隆さんは自分の方から自慢話をされないので、彼の外国での活躍は残念ながら日本では充分知られていないようです。 2000年春、私はコロラドのアンダーソンランチに隆さんを訪ねた時、Denver Art Museumで展示があっているのを知って美術館に行きました。五階全室が隆さん一人の展示会場で、アンダーソンランチで作陶した大壷や大瓶等、百十数点が置かれてありました。 ヴィデオコーナーには五、六台機械が用意され、彼の制作情景に陶芸希望の青年達と思いますが、熱心に見学しておられたのが印象に残っています。しかも一年という長い期間での展覧会で、美術館の力の入れようにも感動致しました。 彼はもともと好奇心旺盛な人で、お招びがあればどこへでも気軽に出かけ、そこでの土や技術を自分のものとしてクリエイトしておられます。 今回は唐津をはじめ、アンダーソンランチ、ユタ州立大学、ロイヤルコペンハーゲン社で制作された作品を準備しました。又、隆さんの初期の作品“双魚”、種子島の擂鉢、越前壷なども展示しています。最近益々チャレンジ精神が盛んな隆さんのデザインしたタイルやランプシェイドも会場の一部に使用しております。どうぞお出かけくださいますよう、ご案内申し上げます。 2006年9月吉日 洋々閣 館主 大河内明彦 |